なぜ塩ストレスでトマトは甘くなるのか?

「フレッシュな赤いミニトマト」の写真

はじめに

最近のお出かけは、このご時世もあって、スーパーばかりです。ですが、スーパーもよくよく観察してみると面白いものです。

最近のトマトコーナー を見てみると、種類がたくさんあって驚きます。

リコピンリッチ」とか「GABAリッチ」とか機能性系にも特化してきていますね。

 

トマトの産出額は2,422億円(『野菜をめぐる情勢』, 平成29年)であり、野菜の総生産額(2兆4,508億円)の10%を占めます。私が住んでいる家のお迎えさんもトマトを栽培しているようです。

次世代式施設園芸に関してはまた調べたいと思いますが、農水省が取り組んでいます。

オランダの施設園芸を参考に、 ①高度な環境制御の導入 ②雇用を活用した規模拡大 ③地域エネルギーの活用により日本の自然条件等に適した形で、我が国の施設園芸の課題を一挙に解決するトップランナーモデル(次世代施設園芸)の確立を図る。

とりあえず、日本の野菜ご事情を知るには上のリンクを見てください。

 

近年では、消費者の嗜好も高まり、フルーツトマトや高糖度トマトとして売り出されています。高糖度トマトの明確な定義はないが、通常トマト糖度4~5度と官能評価で区別できるような7~8度以上が目安になっているようです。

これらのトマトの栽培には、灌水制限や遮根透水シートを用いた根域制限、根域の塩濃度を高めるなど、根にストレスを与えることで品質を向上させる技術が利用されています。

その中でも、塩ストレスはどのように糖含量を増加させているのでしょうか?

 

塩ストレスでトマトはどうして甘くなる?

以前、この質問を農家さんにした時、「凝縮されるから」との回答をいただきました。単純なのでその時は「ほー」と思ったのですが笑

 

実際その説は2000年までは正しかったとされています(sakamoto et al.)。

根域への塩ストレスは、根の吸水を抑制し、果実への水分流入が減少するため果実サイズが小さくなるとともに、濃縮効果が生じることで果実糖度が上昇すると考えられてきました。

 

しかし、いくつかの矛盾が発見され、濃縮効果だけで果実糖度の上昇を説明はできませんでした。

 

そこで、より詳しく調査を進めたところ、塩ストレスによって果実への同化産物(光合成によって作られた物質 : デンプンやショ糖など)の分配率が高まることや、同化産物を引き込む力(シンク強度)の主要因であるスクロースシンターゼの活性が高まることがわかった(Saito et al.)。

つまり、塩ストレスによって糖が果実へと流入しやすいような仕組みに切り替わったことで、糖度が上がったとされている。

 

どの塩が効果的?

塩と言っても様々ありますが、トマト糖度を上昇させるのに適しているのはNaClだそうです。他の塩ストレスでは陽イオンの欠乏症や収量減少が確認されています(Adams et al.)。

海水を用いた高糖度トマト栽培の研究も行われています。

 

濃度・時期

問題は塩濃度を高くすればいいという訳ではないこと。

塩濃度が高いほど糖度は上がるが、収量が下がります。最も効率的な点を見つけることが重要だと考えられます。

 

時期で見てみると、果実肥大初期は糖度は高いが収量は減少するが、催色期は糖度は1度程度の上昇であったが収量はやや減少したに止まった。

このことから時期が早すぎると収量にも影響が出ることがわかります。

 

まとめ

・塩ストレスは濃縮効果だけではなく、同化産物の効率的な果実への流入に関わっている。

・NaCl が塩では最適。

・時期や濃度は収量減少にもつながる。適度な塩ストレスが良い。

 

こんなところです。

 

調べていく中で、水ストレスや根域温度を低くすることで糖度をあげるという方法も行われているようです。

こちらについては今後調べていきたいと思います。

 

 

引用

Effects of salinity at two ripening stages on the fruit quality of single-truss tomato grown in hydroponics

Y.Sakamoto, S.Watanabe, T.Nakashima & K.Okano

 

Effectsof Salinityon Distributionof Photosynthatesand Carbohydrate MetabolisminTomato Grown using NutrientFilm Technique

TakeshiSaito,Naoya FukudaS,Chiaki Matsukura and Shigeo Nishimura

 

Effects of increasing the salinity of the nutrient solution with major nutrients or sodium chloride on the yield, quality and composition of tomatoes grown in rockwool

P.Adams